Will you sew my dress? と Will you sew me a dress?

高校生の頃、私は松本亨先生(故人)の著書を愛読していました。なかでも特に印象深いのが、『英語で考えるには──その秘訣と練習』(英友社、英題:Toward Thinking in English)という一冊です。昭和49年に出版された、いまではかなり古い本ですが、その内容はいま読んでも学びに富み、まったく色あせていません。

この本には、「英語で考える力」を養うためのトレーニング法や読み物、実践的なアドバイスが豊富に収められています。中でも私の記憶に残っているのは、「日本人がよく間違える英語表現」に関連した章です。日本語から英語に訳す際に起こりやすい誤りが紹介されており、読んでいるうちに何度も「あっ、自分も間違って覚えていた」と気づかされました。

とりわけ衝撃を受けたのが、次のような英作文の例です。

「(布があるんだけど) お母さん、私のドレス縫ってくださる?」

当時の私は、何の疑いもなく “Will you sew my dress, Mother?” と訳しました。しかし、解説を読むと、これでは「すでにあるドレスを繕ってほしい」という意味になってしまうと説明されていました。たしかに「自然な英訳」に見えますが、文脈は「布があるから、一からドレスを仕立ててほしい」というものです。適切な訳は、“Mother, will you sew me a dress?” や “Will you make me a dress, Mother?” です。

「私のドレス」という日本語を見た瞬間に、反射的に “my dress” としてしまった自分にがっかりしました。日本語に引きずられて誤訳してしまう――まさにその典型例でした。

英語では “my dress” という表現には、「すでに存在しているドレス」というニュアンスが含まれます。一方で “a dress” は、「まだ存在しない、これから作られるもの」を指します。つまり、「私のドレスを縫って」と言いたいときでも、意図が「一から作ってほしい」であれば “a dress” を使うのが自然なのです。もちろん逆に、既にあるドレスなら sew my dress で言い訳です。試しに 「布が少しあるんだけど、私のドレス縫ってくれる」をAI 翻訳にかけてみると、I have some fablic. Will you sew me a dress? とちゃんと訳していました。AIも大したものです。

実はこの話には続きがあります。

後年、私が高校教員として校内実力テストの英作文を担当した際、この「ドレスを縫う」という問題を思い出し、生徒たちに出題してみました。学年全体で約400人。そのすべての答案を私が採点しました(英作文担当者が全員分を採点するという英語科教員のローカルルールがあったのです)。

結果に私は驚きました。正しく “make/sew me a dress” や “make/sew a dress for me” と訳せていた生徒は、400人中たったの2人です。その2人の答案は他の設問も抜群にできていて、「これはただ者ではない」と感じた私は、担任の先生に確認してみました。すると、どちらの生徒も小学生時代に数年間、海外で生活していたことが分かりました。そのとき私は、自分が高校生のときに受けた以上の衝撃を覚えました。

「a dress」と「my dress」――たった一語の違いですが、英語的な発想の有無を如実に示していたからです。

けれど、心配は要りません。この違いを一度理解すると、もう迷うことはありません。こうした気づきの積み重ねこそが、「英語で考える力」の第一歩ではないでしょうか。

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