字幕翻訳に学ぶ

——自然さと制限の中で生まれる言葉の芸術——

今日は、皆さんに英語の映画やビデオの字幕から翻訳について考えてもらいたいと思います。もちろん、私は英語は英語で感じて考える主義ですから、英語を日本語に訳することを勧めている訳ではありません。ただ、皆さんが翻訳という作業の裏話を知ることは英語学習にプラスにはなると思っています。なぜなら、誰かが訳した翻訳というのは「絶対ではない」ということが実感できるからです。

映画やドラマの魅力のひとつに、字幕があります。特に英語から日本語への字幕翻訳には、ただ言葉を置き換えるだけではない、繊細で奥深い工夫が詰まっています。字幕翻訳は「翻訳」であると同時に、「編集」でもあるのです。

まず大前提として、字幕には制限があります。視聴者が読み切れるように、1行に表示できるのはおよそ13〜15文字、2行合わせて30文字以内が理想です。そして、その文字は1秒間に4文字前後で読めるように調整されなければなりません。たとえば2秒間だけ表示される字幕なら、8文字以内に収める必要があるということになります。

この制限の中で、翻訳者は日本語として自然な表現を選ばなければなりません。直訳は避け、視聴者の心にすっと入るような意訳を心がけます。たとえば “Are you serious?” を「本気なの?」と訳すより、「マジで?」としたほうが、口語のニュアンスがよく伝わります。

また、字幕には映像との連携も求められます。たとえば登場人物が怒った表情をしていれば、「怒っている」とわざわざ字幕に入れる必要はありません。映像が伝えていることは省略し、逆に言葉で補わなければ伝わらない部分に集中するのが、字幕のプロの技です。

そして何より大切なのが、感情や雰囲気を壊さないこと。“I guess that might work…” のような曖昧な言い回しは、「たぶんね」や「うまくいくかも」といった微妙なニュアンスを含んだ日本語に置き換える必要があります。

字幕翻訳とは、まるで詩を書くような作業です。制限の中で、最大限の意味と感情を表現する。この言葉の芸術が、私たちの心に物語を届けてくれるのです。

具体例で見てみましょう。

Anne: What book are you reading? You won’t even look up when I’m talking to you.

Tom: I’m reading War and Peace by Tolstoy. In the original.

Anne: When I see you reading, you act like some kind of great scholar.

Tom: I don’t mean it that way. I just enjoy the classics — with passion.

Anne: Would you lend me the book when you’ve finished it? I’m interested in whatever you enjoy doing.

Tom: OK, but don’t pass it around to your friends. If you do, I’ll never let you read any of my books again.

これを普通に訳すと、こんな感じです。

アン:何の本読んでるの?話しかけても全然こっち見てくれないじゃない。

トム:トルストイの『戦争と平和』だよ。原書で読んでるんだ。

アン:そうやって読んでるの見ると、なんか学者ぶってるみたい。

トム:そんなつもりじゃないよ。ただ、古典文学が好きなんだ。本気でね。

アン:読み終わったら貸してくれる?あなたが好きなものに興味あるの。

トム:いいよ。でも友達に回しちゃダメだよ。そうしたら、もう本は絶対貸さないからね。

では、これを私も字幕風になるように挑戦してみます。

各セリフを1行または2行、15〜20文字程度に収め、読みやすく自然な口語表現でまとめました。

アン:何読んでるの?話しかけても無視ね。

トム:『戦争と平和』。トルストイの原書でね。

アン:なんか、学者ぶってるね。

トム:違うよ。古典が好きなだけさ。

アン:終わったら貸して。あなたの好きな本、興味あるわ。

トム:いいけど、また貸しダメだよ。次は絶対貸さないよ。

字幕翻訳も楽ではありませんね。

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