「サラダ記念日」を英訳すると

「この味が、いいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日」——これは俵万智さんを一躍有名にした短歌です。好きな人に手料理の味を褒められた、ただそれだけの一日。しかし、その日が彼女にとっては、高校や大学の合格発表日にも匹敵するほど特別な「記念日」となったのです。この歌は、女性の心の機微を見事に捉えた作品として高く評価されました。

この短歌は日本国内にとどまらず、海外でも広く知られるようになり、多くの翻訳家によって英訳が試みられてきました。

俵万智さんの歌集『サラダ記念日』の公式英訳版『Salad Anniversary』では、ジャック・スタム(Jack Stamm)氏が次のように訳しています。

“This taste is good,” you said, and so

The sixth of July

Became our Salad Anniversary.

また、ケネス・ヘンシャル(Kenneth G. Henshall)氏による有名な訳もあります(『A Guide to Tanka』などより):

“This taste is good,” you said,

So July 6th is the Salad Anniversary.

この短歌は他にも、英語圏の日本文学愛好家や翻訳家志望者によってさまざまな形で訳されています。例えば次のような訳も見られます:

You said, “This taste is good,”

And so July 6th

Became our Salad Memorial Day.

あるいは、

The way you said “This is delicious,”

Made July 6th our Salad Anniversary.

このように、ひとつの短歌に対してこれほど多様な英訳が生まれるのは、原文が持つ日本語独特の韻律や含意を英語で再現することの難しさゆえでしょう。

俳人・松尾芭蕉が、自身の句の一文字に長い時間をかけて推敲したと伝えられるように、現代の詩人や翻訳者たちも、言葉や文字の選び方に深くこだわります。特に翻訳においては、原文の意味だけでなく、その余韻や空気感までどう表現するかが問われます。だからこそ、種々の翻訳はしばしば「原作とは別の作品」と見なされたり、「原作以上に魅力的な訳」と言われたり「原作をダメにした」とかいろいろに評価されることもあるのです。

芸術としての翻訳を考えるとき、私たちは常にこうした事実を忘れてはなりません。

日本語から英語への翻訳は、英語から日本語への翻訳についても同様のことが言えます。

英語が日本語に訳された時点で、元の英語のもつ独特な「味わい」は、別のかたちに変化しているのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です